『手』を通したコミュニケーション
こんにちは。作業療法士の小長谷です。
今年も7月に入って以降、とても暑くなってきましたね。。。
訪問の移動中、車内温度をたまに確認すると40℃を超えることもあり、小まめな水分補給に注意しながら仕事をする季節になりました。気を付けていきましょう。
さて今月は私から、『手』を題材にしたお話をしたいと思います。
「人体における手とは」
『手』は人間には左右2本、指の数で言うと10本あります。
私たちはよく上肢(指先から肩までを総称して)と表現します。
上肢全体の重量でいうと、全体重のだいたい8%(左右で16%)程度、例えば体重60㎏であれば、約5㎏(左右で10㎏)となります。※所説あり
——— ホムンクルスの図 ———
ワイルダー・ペンフィールドという脳神経外科医が描いたもの。
5本の指と手のひらが占めている割合は運動野が全体の約3分の1を、感覚野は全体の約4分の1を占めている、といわれている。
その比率を人体模型にして表したのが、ホムンクルス人形。
※上記2つの図参照
「日常生活における手と脳の関係」
私たちは、手を使って毎日いろいろな動作をしています。
〇食事や書字などの生活の中で利き手として使う
〇紙を抑えたり、釘を抑えたり補助的に使う
〇コミュニケーション(手話、ジェスチャー)の一部として使う
〇歩くときにバランスを保つために使う(転びそうになると手で受け身をとろうとする 手を振るなども)
などなど
これらを実現しているのは、特別かつ複雑で精巧(手をより巧緻的に扱う)な動きが可能な指のおかげです。
こうした体の「動き」を担うのが運動野であり、「手ざわり」や「重量感」などでモノの性質を「感じ」手の動きに反映させるのが感覚野です。
これにより精巧な動きができるというわけです。
面白いのは、その表面積は、全身の表面積の10分の1程度にすぎませんが、運動野・感覚野を含め、
大脳の領域の約3分の1が指と手をコントロールする
ために使われています。
簡単に言うと、脳は指先に多くの「指令」を出しているわけです。
臨床研究の中で、指先の感覚が生態力学に及ぼす影響の大きさから
「指は第二の脳である」
と言われることもあるようです。
手は感覚情報を繊細に受け取り、無意識に運動(動作)しながら、不具合について感覚情報をもとにリアルタイムに微調整しながら動く、だから人は巧緻動作をすることができるのかもしれませんね。
——— 小長谷のプチッと観察日記 ———
私がここ最近すごいなと思ったお話。
レストランで両手いっぱいにワイングラスを持ち、なおかつ中に入っているワインをこぼさずに食器を運んでいるウェイトレス。
グラスを落とさないだけではなく、ワインをこぼさないように、そして素早く歩いてテーブルへ運ぶ。
指先の感覚を研ぎ澄まし、指先の絶妙な力加減でグラスを把持して、なおかつ歩行する。
化け物やなと思いました。(笑)
「人は無意識に手を使い、作業を遂行する」
これはもう10数年前に山梨県で開催されたリハの勉強会に参加したときに、講師をしてくださっていた方が仰っていた言葉です。
私が働いている現在の訪問看護のフィールドでは、
「手は使えない・・・」
「もう手はよくならない」
「手が硬く感じる」
「手が痛い」
手に関する訴えの多くは「何かができないこと」ではなく
「手を使えない」。
脳卒中後遺症による片麻痺や難病(パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症など)による筋力低下・不随意運動など、多種多様な臨床所見が及ぼす上肢障害もまた多種多様だと思います。
そのような方々に訪問で支援をさせていただくときに私が心掛けていることは
「手を使って会話をすること」
です。
「手と手が伝え合う自己肯定」
手を使って会話をすると聞くと「ジェスチャー」をイメージする方が多いと思いますが、ここでいう会話とは、
お互いの手を通して様々な情報のやりとりをする
という意味です。
※勿論、ジェスチャーで会話をすることもその一つです。
例えば、その人の手に触れて、マッサージをしながら身体の状態を確認します。
痛みの確認とともに、身体の筋肉の状態や関節の動き具体の確認をする際も「動きはどうですか?」「動かしてみてください」など、お互い手を見ながら確認をすることもします。
また作業療法ですので、折り紙や縫物など一緒に手作業をすることもあります。
その際「器用に手を使いますね」と、無意識に使っている手の動きを言葉で伝えることもしています。
会話の中で手を題材にすること、そして手の状態を
「否定的」ではなく「肯定的」に捉えられる
ように努めています。
「手が意味する関わりとは」
手は様々な情報を受け取る感覚器官であるが故に、「手が使えない」ということは、言葉でのコミュニケーションが取れない同様、身体のコミュニケーションができなくなることだと思います。
障害を持つ高齢者や障害者の方々にとって、ご自身の身体とコミュニケーションができなくなることは、痛みに対する感度が高く、筋や関節に対する感度が落ちている状態とも言えます。
このような状態はセルフメンテナンスという観点でみても、望ましい状態ではないと思います。
私たち訪問リハに従事するセラピストにとって、利用者さんが
自身の身体とコミュニケーションできる状態を維持できる
ように関わっていくべきなのではないかと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
原著:小長谷
編集:北井(かたりば編集長)
—————————————————
【合わせて読みたい】
『その人らしさに寄り添う身近な存在』
—————————————————
0コメント