多職種情報交換会での講義を経て

皆さんこんにちは、言語聴覚士(以下、ST)の佐々木智加です。
 
昨今、リハビリ専門職に対する多職種連携やリハ視点の介護保険活用などが求められており、介護保険下における良質なサービス提供にはケアマネとの連携が欠かせないものとなっています。
 
そこで、お互いの役割や自立支援を行う上での効果的連携の在り方などについて相互理解を深めるため、平成29年度よりケアマネとリハビリ専門職の情報交換会を開催することになりました。
 
一方、私は訪問に出ているSTとしての思いをどう形にしていけばよいのか、はじめの一歩が踏み出せないまま時が過ぎていた頃に講師の依頼をいただきました。
かたりば内には「STアセスメント」という部門があり、その活動を通じて地域リハビリテーション広域支援センターと共催という形で、仲間の松永さんと共に情報交換会に臨みました。
 
第5回となる今回は『地域における言語聴覚士(ST)を知ろう!~コミュニケーションと摂食嚥下の専門職から伝えたいこと~』をテーマに、講義をさせていただきました。
 
そもそも、食事は人間らしい生活を営む上で欠かせないものであることは言うまでもありませんが、その内容や思いは人によって求めるものが異なるはずです。
「子供の頃から慣れ親しんだもの」などは勿論、経口摂取が困難な事例では「口に物を含む」という行為自体が『人間らしさ』を構成する要因となり得るのではないかと思います。
時に随伴するリスクと向き合いながら対象者や家族に寄り添い、温もりを感じてもらえるSTという職務はとても奥深いものだと言えます。
 
近年、脳血管疾患やフレイル等による言語・摂食嚥下障害を抱える方が増加し、医療機関に留まらない社会的ニーズが高まる中、STとのconnectに頭を悩ませる方も少なくありません。
と言うのも、2021年3月時点で約3万6千人いるSTですが、その7割以上が医療系サービスに身を置いており、訪問に携わる割合は老健・特養を含めて約15%と少なく、訪問の実数値はこれを更に下回ることになります。
需要に対する供給は間に合っていないのが現状という訳です。
 
STの介入する意義は対象者が「自身の意思で社会参加をする」ことに帰属します。
言語障害を抱えて以降、多くの失敗体験をしている中で形成されるバイアスが社会参加への歩みを拘束しているとするならば、どんな形であれ「伝わった」という成功体験を積み重ねることが重要だと考えています。
それは決してリハビリの場に留まらず、日常生活の何気ない会話ややり取りの中で体験することが出来るはずで、日常生活がリハビリそのものである、と言っても過言ではないと思います。
まして、話したい相手(家族など)や生きた証がすぐ傍に存在している在宅だからこそ提供出来る言語療法があるはずです。

一方、望むような機能回復が出来ない場合が多くあることも事実で、その効果判定に苦慮することも少なくありません。
また、リハビリ自体何を以って卒業とするかが難しい、という問題も常に横たわっています。

目標もニーズも対象者によって異なる中で、在宅で関わる摂食嚥下の目指すところは、
対象者の「おいしい」という言葉にあると考えています。
それは、住み慣れた自宅で、一緒に過ごしたい家族がいて、慣れ親しんだ味が再現出来る在宅だからこそ「おいしい」が引き出しやすいとも思っています。
 
勿論、主治医許可のもとである前提で、強制されるものでもありませんが、対象者やご家族の食に対する思いが在宅復帰を果たす・在宅生活をしていく中で変化することも往々にしてあります。
時に、入院中の嚥下機能よりも良い場合もあります。
そうした変化を感じ取りながら、対象者やご家族の思いを汲み取り、多職種と連携を取っていくことがSTに求められているところだと感じています。
 
といった具合に、「地域におけるSTの役割」という観点から、現時点での私の経験や知識で伝えられることを、めいっぱいの思いと一緒に詰め込んでお話しさせていただきました。
これは、私の中でもSTを志した時からのテーマであり、これからもずっと付き合っていくものでもあります。
どのくらい伝わったかは、これからの現場で感じていけることを期待しています。
 
松永さんからは、嚥下障害を抱えた方とSTを含めた支援者について、具体的な事例を通じてお話をしていただきました。
中でも、退院前カンファレンスに参加することで、訪問開始前に本人様やご家族の希望聴取・ケアプランの相談や提案が出来ることは非常に大きなメリットとなります。
支援者側が希望に沿った目標やゴールを共有することで、統一感のある目的意識を持ったサービス提供が可能となり、受け手に与える安心感もより高まります。
また、卒業を見据えた計画的なサービス利用にも繋がり、多方面において理想的な形と言えると思います。
 
今回の事例紹介のように、専門職であるSTが介入することで在宅生活を支えるご家族の嚥下障害に対する不安軽減に寄与し、コミュニケーションツールを活用した多職種連携を円滑に図ることが出来たことも大事な要因と考えられます。
 
もし、在宅において食事が取れていない・内服が上手く出来ていない・痰絡みが多くなった・言葉数が少なくなったなどの変化がみられたら、是非STに相談をしていただきたいと思います。
また、それは在宅に限らず、入院中(退院予定)の方で本人のニーズと身体症状が乖離している場合・STリハ継続の必要性の判断が難しい場合などにおいても、一度STによる視点を活用してみても良いかもしれません。
 
こうした一つ一つの事例を丁寧に包摂することで具現化していく対象者の思いやSTの役割を、多職種のアンテナが張られた場で共有出来たことは非常に意義深いと思います。


本会は、医師や歯科医師の先生方も含めて88名という非常に多くの方にご参加いただき、これだけSTに興味を持ってくれている方がいるんだなと、嬉しく思うのと合わせて背筋が伸びる思いでした。
また、講評の中でいただいた、「人材が少ないSTを独り占めしてはいけないと感じた」というコメントが印象に残っており、人材や仲間を増やしていく努力をしていかなければならないと思うと同時に、どう使ってもらえるかということも考えていかなければいけないと思いました。
その突破口の一つにこのかたりばがあるのかもしれません。
 
今回、ケアマネをはじめ様々な職種の方にご参加いただけたこと、かたりばの名前を掲載した上で地域リハビリテーション広域支援センターとコラボレート出来たこと、かたりばというコミュニティで活動出来ていることに、改めて深く感謝致します。
 
最期まで読んでいただき、ありがとうございました。

すんぷ訪問リハビリコミュニティ「語Reha"」

静岡市の訪問リハビリ従事者が独自の視点で地域を支えるプラットフォームです!

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