『その人らしさ』を求めて

皆さんこんにちは.
訪問看護ステーションしずおかの作業療法士の小長谷信登です.

私自身,語reha゛に参加させていただくようになってまだ日は浅いですが,地域で働くセラピストの輪の重要性と面白さを感じるようになりました.
そんな私からは,訪問でのリハ支援をする際に念頭に置いていることをお話しさせていただきます. 

それはずばり『その人らしさ』という視点です。

今回の投稿に際し,普段自分が利用者様と関わるときに何を大切にしているかを改めて考えました.
そんな時に,ふとこのフレーズが頭をよぎりました.

以前担当をしていた方の中で「どうしても車の運転をしたい」という方がいました.
この方は脳卒中を発症してから半年経過された方で,左半身の運動麻痺と高次脳機能障害(左半側への注意が向きづらい)の後遺症がありました.
初回訪問支援時に「運転をしてどこか行きたいところがあるのですか?」と聞いたところ,「俺が運転をしないと妻が買い物に行けないじゃないか.妻と一緒に出掛けたい」というお話を伺いました.
この方は定年後に夫婦でよく国内旅行を楽しまれていたようで,家には旅行の写真が何枚も飾られていました.
近所の方からは、普段から一緒に歩いている姿をよく拝見するというお話もあり,妻と一緒に出掛けることはこの方にとって『役割』であり『生きがい』であったように思います. 

そんな妻思いのこの方にとって,妻と一緒に過ごす時間を充実させることが大切であり,車の運転もその重要な1つであったことが考えられました.
リハビリにも積極的で,常に「どんなことをやればいいの?」と聞いて下さり,訪問リハビリ時に行っている訓練メニューを日頃の自主トレーニングとしても積極的に行っていました.
ただ最終的に,車の運転は主治医と相談の上,免許返納という形となってしまい,しばらくの間は精神的に元気が無くなってしまいました. 
そこで,「妻と一緒に外出をする」という新しい目標を提案し,外出方法の検討と屋外歩行などの訓練を行いました.
すると,訓練をしていくうちに,料理や散歩など病前に行っていた『習慣・役割の再獲得』というベクトルに意識が変化していったのです.
最終的には,妻と一緒に料理をして,妻に得意のカレーライスを作るところまで回復することが出来ました.
妻に「味がまだまだね,と言われちゃったよ」と話す笑顔が,『この人らしいな』と思える瞬間であったことを今でも鮮明に覚えています. 

さて,『その人らしさ』を改めて言語的な観点から考えると,辞書などでは完全に一致する英語表記は見当たらず,直訳すると“Like Himself/Like herself”“As he/As she”もしくは“be you”などとして使われることが多く,「ありのままで」という表現になります.
であれば,変わらないinvariantと捉える「ありのまま」と,対象者から滲み出るpersonality(様々な要因により変化し得るものも含む)と捉える私達視点からの『その人らしさ』とは一線を画する表現となるようです.

では,「その人らしさ」とは一体何なのでしょうか?

これに対する答えは,職種や立場等の立ち位置によって異なる表現となるものだと思う上で,日本語の持つ特有的な表現であるとともに,『その人らしさ』という言葉に対する主観的な要因が大きく左右するのだろうと感じます.
少なくとも,私達Therapist的には『その人らしい〇〇を獲得する』といった何らかの目標となるフレーズであることは間違いないだろうと思います.
リハビリの専門職として,その人の抱える障害や日常生活上の問題に対する解決策を導き出すことが自分の仕事だと思っています.
場合によっては,その目線を「治す・良くする(雑な表現ですが)」に向けることで,「やれること・できること」を探し,対象者に「頑張ること」を求めるようになってしまうこともあります.
しかし,様々な疾病やそれに伴う後遺症が原因で生活に何らかの支障を来たし,不自由さやモチベーション低下を引き起こすことで,「やろうと思えばできる」もしくは「できるようにならないからやらない」等といった精神的な問題を抱えている対象者も多くいます.
それは時に,身体的な問題よりも複雑で,Therapistからの「頑張りましょう!」という声掛けが重荷になってしまうこともあると感じています.
そのような方々に対して,リハビリの専門職として地域で働く私達が出来ることは,

 『その人らしさを取り戻す手助けをすること』 

なのではないかと考えています.
その人にとって必要な手助けとは具体的にどんなことなのか,解決策を導き出すにはどう声掛けをすれば良いのか,まさに『その人らしさ』について試行錯誤の日々ですが,一人でも多くの方に手助けが出来るよう,語reha゛の皆さんと刺激し合えたらと思います.

最後まで読んで下さり,ありがとうございました.

すんぷ訪問リハビリコミュニティ「語Reha"」

静岡市の訪問リハビリ従事者が独自の視点で地域を支えるプラットフォームです!

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